大団円――2/19神田松之丞改メ六代目神田伯山真打昇進襲名披露興行 新宿末広亭九日目

2020年、色々あった。

離婚が決まった

新型コロナで世界がおかしくなった

ほんのり死がよぎった

人がいない生活が心地よかった

東京がもうよくなった

離婚して実家に帰った

 

でも、情感込めて振り返る気にもならない。

「自分よりもっと辛い人が…」とかではないけど、普通に生きてて全国民の生活が等しく変化するタイミング滅多になんてないから。これがノーマルなら別にそれでいい。

純粋に、ひきこもり体質なのと、とにかくめんどくさいこと、距離感が近すぎるのが嫌いなんだけど、ある一定のライン越えたらこの方が生きやすいんじゃないかと思えてきた。

 

ライブも、全部が等しく中止になってしまったので、全部が等しく戻ってくる気がしてる。5月とかさめててキモかったな。

 

とはいえ、この時期はやはりソワソワする。何かしら書きとめたり、ベスト〇〇をあげて年を納めたりしたい気がしてくる。

細かいタネはたくさんメモしてあるけど、これだけはまとめておきたい。

 

令和2年2月中席、講談師神田松之丞が真打に昇進した。

そして松之丞から六代目伯山になった。

 

去年「問わず語りの松之丞」を聴き始め、運良くチケットが取れて講談も聴き、神田松之丞の虜になった。

2020年の披露目興行が待ち遠しくて仕方なかった。

と、同時に寄席にも行ったことはないし、とてつもない人数が押し寄せてくるだろうから、私なんかほんの少しもその熱気を感じられないのではないかと不安だった。

 

年が明け、次々とメディアにも登場し、披露目のゲストのラインナップも決まり、冗談だと思ってたYouTuberにもなり、華々しいパーティーの模様は全世界に発信された。

さらに、2/10の最後の独演会もよみうりほーるのさ天井に頭がつくかと思うくらい後ろの席だがチケットが取れて神田松之丞の見納めができた。

 

でも、披露目なんて絶対行けない。

無理無理。

寄席ファンと熱狂的ラジオリスナーで絶対埋まっちゃう。

諦めようと思っていた。

 

でも、伯山ティービィーで興行の様子が毎日配信されるともう我慢が効かなくなった。

お尻がもじょもじょ動くくらいうずうずしてた。

 

毎日毎日、Twitterで「末広亭」「伯山」で検索して、行列の具合を確認した。日にちごとの人の流れや周辺の様子、天気も細かく確認した。

爆笑問題ゲストの日は前日の寄席がしまったときにはもう並んでいたとか。

今日なら朝遅くても余裕あったのに…という日もあった。

そして、ようやく踏ん切りがついて9日目に足を運ぼうと決心した。ゲストは志らく師匠。

 

 

以下、前日から時系列でiPhoneでメモしたやつ。

 

2/18

13時

伯山ティービィー7日目を見る。

毎日見てるので毎日通ってる気分になる。

今日は、鯉八さん(注:この頃まだ2つ目だから)と小痴楽師匠がいて、成金感強め。

小痴楽師匠は口上の司会ということで緊張している。

親子合わせて「高校一年半」なんて言ってたけど、そんな冗談が高田先生とかいる楽屋ですぐ出てくるあたりクレバーだし愛される理由がよくわかる噺家さん。

 

前日の伯山ティービィーや情熱大陸を受けて器用にマクラやネタを変えていく噺家さんたちとてもかっこいい。

そして、お客さんの雰囲気を共有しあってその日の寄席を作り上げる楽屋もかっこいい。

 

きっとこの感じがお正月の末広亭からの中継でもにじみ出てたんだろう。

ほんとは、末広亭興行は見送るつもりだったのに、アレを見てどうしてもあの空気を味わいたくなってしまったのだ。

 

明日、私はどんなお客になるんだろう。

志らく師匠目当てのミーハーってことにしといて。

さて、5時に起きるためにいろいろ調整始めないと。

 

23時

水川かたまり式安眠法で床につく。今日のネタは義士。明日はなんだろう。

列はどれくらいだろう。何より、25時からは伯山先生が爆笑問題カーボーイに生出演。もし目覚めてしまったら聴こう。

 

2/19

6時

逸る気持ちを抑えながら、電車はゆったり行けるように、武蔵小金井始発に乗るため調整。いつもと違う発車メロディ。新鮮。

昨日のカーボーイを聴きながら、違う世界の住人と乗る電車。

(注:思い出せばこのころは、マスクしてない人も多かったな)

 

7時

末広亭到着。

行列の先頭を見るまもなく、おしりにきてしまった。先頭はパチンコ屋の開店待ちかもしれないのに。

何人いるだろう。200人くらいかな。調べるのも怖いな。

末広亭の横で「人間国宝が台湾で勃起しすぎてフェニックス」のくだりを聴き吹き出す。

 

7時40分

列が動き出した。配布開始かな。

ビルの谷間で寒い。スカートみたいに巻けるダウンケットは神。こういう時はホットレモンティー

 

7時53分

末広亭の前へ移動。ゴミ収集車や搬入の車が動き出すから邪魔なのかな。

私みたいにフラフラしてたら、結果的に芸協に迷惑がかかる。

前の方の人が、私の後ろの方と番号について話してた。並んだ順よね。うんうん。横入りあったようだけど。

 

ちょうどカーボーイでは10のボケの手紙。

神田うのさんこんにちは」「こんにちは」でまた吹き出す。

 

7時56分

10のボケを聴いてる途中で整理券無事いただいた。1時間弱並んでだいたい150番くらい。

絶っっっっっったいなくさないよう深いところにしまう。

みんなホッとしたようで、末広亭の外観を撮る撮る。

 

8時10分

朝食とるためにジョナサン新宿五丁目店にイン。ホッとしたついでにTwitterで状況を調べてみる。早い人は早い。業界の人もならんでる。寄席は平等。

カーボーイの続きも聴く。10のボケの手紙すごい!あと10ネタあれば国宝レベル。

 

9時20分

帰るのもめんどいので、おやつもろもろ買い込み、マスクはないけどコンビニで除菌ウエットティッシュを見つけ、ネカフェにイン。ルミネ公演の前とか、よく来るなここ。

ほんとは布団で寝たいけど、フリードリンクでブランケットもあれば十分でしょう。4時間見る体力をチャージ。

 

11時40分

ひと眠りして起きた。外はランチタイムのサラリーマンだらけか。夜の部乗り切るために遅めランチにしよう。中村屋のチキンカレー食べたいな。あとビックロ行きたい。

 

14時

ごろごろしてたらまた寝てた。

伯山ティービィーがアップされてたので、ドリンクを飲みつつ大画面で。ネカフェ、YouTube見るしかパソコン使わないな。

ろせんの意味を知る。ろせんがおやかる。

 

15時30分

入場券を購入する。寄席感が高まってきた。

近くの、雰囲気がただよさげなだけで椅子やらテーブルやらがバラバラだから高さもずれずれで店員のテンポもずれずれで全然安らげないカフェでめし。ハンバーグはめちゃうまかった。

サクッとめしを済ませるのもいいけど、麺でつるっといくよりこういうときは肉と米をぶちこんでおくのが吉。雰囲気はどうでもいいけど、腹が満足だから大丈夫。

 

(ここで雑多な事項のメモが止まってる。興行の感想はまとめたし、細かい話は若干盛るけど当時を思い出しながら)

 

16時過ぎにまた並んで順番を待つ。番頭さんが列整理。ご苦労さまです…

ここの音声も録音されてなかったんだな。残念。

入場しても、どやどやいい席を選ぶような野暮なことはしないと思ってたけど、アワアワしてるうちに桟敷席に誘導されちゃった。2階の方がよかったか。近いし見やすくはあるけど、みっちみち!空いてる時に座りたい。

足の位置も隣の方と融通しながら。スカートがじゃまになってしまった。リュックをクッションにしてコートを小さく結んで体育座り。

 

一番太鼓、二番太鼓ときて寄席の雰囲気が高まる。後ろの通路には立ち見の方。みんなで頑張りましょう…

 

前座さんの桜子さんが開口一番。高座にあがる。

太閤記 三献茶」

声が聴きやすくで話に入っていきやすいし抑揚もなめらかで素敵…もっと聴きたい~

 

前座さんがおりて、いよいよ興行本編へ。番頭の鷹治さん「時そば

YouTubeで見た通り、空気を探っている感じ。いいお客になろうという一体感も感じる。

と、私寄席バージンなんだけども。

ずっと見てるから、めちゃめちゃホーム感ある。家みたいに笑ってていいんかな。

 

音曲の桂小すみさんは、NHKの公開収録で観てうっとりしちゃったので寄席でもお声が聴けてうれしい!

ホイットニー・ヒューストンの「I Will Always Love You」を三味線で弾き語ってくれたのだけど、えんだ~♪がとにかく伸びやかで素敵だしでもここ寄席だしなんか不思議な感覚だし、ようやく肩に入ってた力も抜けてやっと正気に戻って安心したとこだったから、涙がぶわあああああ~っと出てきた。やっと私末広亭に来れたんだ。伯山先生のお祝いの席を見届けられてるんだ。

成金メンバーは、昇々さん!「最終面接」

昇々さんの創作聴いてるとなお一層末広亭がディープな空間に。大成金と寄席ではまた雰囲気が違う噺家さん。でも、いつ見ても男前。

 

そして鯉栄先生「次郎長伝 羽黒の勘六」

ちょっとダレた客席をきゅっと引き締めてくれる講談。

侠客ものを鯉栄先生のあのお声で聴くと臨場感たっぷり。

ダレた客席に、張り扇一発。「こっちも人間なんですよ!」は惚れてしまった。

 

遊雀師匠、ナイツ、柳橋師匠と伯山ティービィーの人気者が続き、笑遊師匠「魚根問」

出てきただけでなんだか笑ってしまう。おう、俺が出てきたぞ~という感じが味わい深い。

あとから見たら、音声はなかったけど、楽屋入りのアテレコもそんな雰囲気だったので、さらに笑ってしまった。

 

あっという間にお中入り。

靴を履いて出やすい位置だったので、お中入りでばたばたとお手洗いへ。

いよいよ、伯山先生にお目にかかれる…

 

伯山ティービィーでも分かる通り、末広亭は舞台の前の方にライトがあるので、真打が顔を上げると下から光があたって貫禄が半端ない。あの目で客席を観られると思わずはっと息をのむ。

 

もちろん、お歴々からのお言葉は虚実入り交じるとても豪華なもの。

カットされてるけど、志らく師匠が寄席向きの発言してたり、笑遊師匠はもっとすごかったので伯山先生が思わず動いちゃった(文治師匠は2回めつってたけど、多分3回。他にもあれば放送禁止用語を言う師匠を諌めてたんだと思う笑)

志らく師匠はほんとかっこいい。口上でアクセル全開。そのまま高座に持っていけるのはずるい。

 

たっぷりのマクラから談志師匠の得意ネタ「幇間腹

立川流の他の噺家さんの幇間腹を聴いたことがあったけど、談志イズムなんだなと納得。談志師匠とここでしっかりつながってくるなんて、伯山先生は幸せだろうな。

 

そろそろ、会場も最高潮に。満を持して、松鯉先生「荒木又右衛門 奉書試合」

とはいえ、ぴしっと空気が張り詰めるわけでもなく、あたたかな眼差しで包み込んでくれるし、たっぷりマクラでほぐしてくれて観客もホッとする感じ。

とにかくお声は通るし、長野出身の私としては、隣の群馬県出身の松鯉先生の話し方がなんとなく聞き慣れたものだからすっと講談の世界には入れる。「〇〇ですな」の言い方が大好き。

確か、ここで松鯉先生が言ってたのかな。寄席で講釈師が4人も出るのはすごいって。

これまでだったらそんな香盤だとダレてしまってたりしたのかな。でも、そんなことはまったくないと思う。

絶対、伯山目当てでも他の方の高座をもっと見たくなる。

 

さて、新真打を迎える前におまちかねのボンボンブラザース!

生で見ると、曲芸ってほんとプロの技。ライブ感もあるし、お囃子さんの三味線も雰囲気があがる。

お客さんとの掛け合いも味わい深い。

素人すぎる感想だけど、靴下でアレだけ動くのすごくないすか???

(ナイツもネタはもちろんいつも通り面白いんだけど、靴下だ…って思ってた)

なんだかんだめちゃめちゃ笑ってしまったので、そそくさとお茶を飲み呼吸を整え、伯山先生を待つ。

寒い日だったけど、心も体もぽかぽか。

 

そして、待ってました六代目神田伯山。もちろん目をかっぴらいて見るのはメガネを外す瞬間。性癖。

「今日、熱気すごくないですか?」との第一声。

そうなのか、となんだかうれしくなる。

笑いすぎて浮いてないかな(無限大ホール慣れしすぎてるので)、冷めすぎてないかなとか無駄に気になっていたので、ほっとして講釈に集中できそう。

マクラは愛山先生の話。その後、ラジオや伯山ティービィーでの対談、ネタ中のエピソードとかでこんなに愛山先生の名前聞くと思わなかったな笑

 

寄席でこういう話聞けるの、ただただいい思い出というか、その日のおみやげになる。

普通のライブなら、テレビじゃこのエピソード聞けないから絶対メモっとかなきゃ、って思うけど、どうでもよくなる。帰りにそばでも食って「ああ、いい寄席だった…」と思うだけでいいのかな。

前売りがなく、(普段なら)その場でふらっと入れる良さだからこそ思うことなのかも。

 

九日目は「鼠小僧次郎吉 汐留の蜆売り」

これは、義士伝とともに絶対冬に聴くべき講談。

2019大成金のトリで初めて聴いて、じんわり胸が熱くなり涙したけど、伯山になってまた聴けるとなり身を乗り出す。

イイノホール、そして最後の独演会のよみうりホールどころじゃない近さだから、臨場感が半端ない。寄席ってこういうことなんだ。

 

そして、これまでは講談だけの会だと妙に背筋が伸びてしまうし、とはいえトークがある場合は神田松之丞という人格がだだ漏れだしで、うまく芸と人間が一致してなかった感覚なんだけど、みんなが寄席で空気を壊さず出番をつなぎ、そして披露目興行を成功させるためにトリに花を持たせる姿を見て、神田松之丞が寄席で講談に出会って芸協で前座修行を積んで芸を円熟させて、人格を形成したんだと感じた。

これまで見た高座や落語会がほとんどトークパートがあったり、お楽しみの時間があったりで、寄席演芸になれてないから、どうにか興味を引いてもらわないと退屈になっちゃう気がしてたんだけどそんなの杞憂でしかなかった。

 

これが寄席なんだ。演芸なんだ。

 

お笑いが好きだけど、落語も講談も曲芸も好き。何より笑うこと、感動することが好き。

 

そして伯山が大好き。

 

蜆売りでほろりと涙を流し心をぐっとつかまれながらもほんのりあったかい気持ちで、この日は大団円。

 

これが当たり前だと思っちゃだめなんだけど、おまちかねのカーテンコール笑

明日も、そしてあと30日頑張っての気持ちで、拍手。力いっぱい。

 

そして、ここで私の体力もいっぱいいっぱい。

まだ江戸の世界から帰れないまま、太鼓が鳴り、スタッフの方が座布団を上げ始める。

靴を履くのもおぼつかない。まだ、コートなんて着たくない。新宿に戻りたくない。

でも、この2月の寒さがちょうどよくクールダウンしてくれた。

夏ならどんな感じなのかな。怪談多いから、もわんとした空気で不思議な感覚になるのかな。

 

これはめちゃめちゃ余談だけど、最寄り駅か乗り換えのホームで羽衣あられ買いました。問わず語りも聴きながらね。

 

もっと披露目興行として楽しもうとしてたと思うんだけど、なんだかんだ寄席の空気が好きになってしまった。ここからしばらく自粛中は落語聴いてた(離婚後の死にそうだったときと自粛中助かった)。

 

気持ちだけは夢の中にいるまま、次の日伯山ティービィーアップ楽しみにしてたのに、いつまで経っても更新されず「諸事情」とのアナウンス。

その後の、顛末はみなさん御存知の通り。

 

 

このおかげで、あのときあの楽屋から連続した高座の熱狂的な空気をリアルに感じられたのは、末広亭の客席にいた3、400人だけだ、と思ったらよりスペシャル感があるね。

 

というか、今から伯山ティービィーの30本の披露目興行の動画を見れば、寄席の住人になれます。絶対見てほしい。

 

そして、テレビの伯山を観て、なにかその人となりについて思ってしまう前にとりあえず講談を聞いてほしい。

江戸は令和にも確実に続いてる。

 

と、今日のところは大団円。また今年のこと少しまとめたい。

ありがとうございま~す。